交流広場・・・その(一)
高久ひさ枝さんの俳句(五月四日・晴生添削)
● こぶし咲く朝霧のなか古希の旅
季語は「こぶし」(春)。この句は順序を入れ替えて、五/七/五のリズムを五・七/五のリズムでいきたい。
※ 朝霧の辛夷の中を古希の旅
● 富士仰ぎ新茶目にしむ旅の朝
季語は「新茶」(夏)。「新茶目にしむ」が不自然な感じ。
※ 新茶の香富士仰ぎ見る旅の朝
● 雲流れ車窓に新茶富士迫る
「雲」・「車窓」・「新茶」・「富士」と盛り沢山。整理する必要があろう。
※ 車窓には新茶の畑(はた)と富士に雲
● 古希の旅過去の思いや花霞
季語は「花霞」(春)。「春霞」とは口について出てくるが、「花霞」とは一寸思いつかない。この句はその「花霞」に主題があるのかも。
※ 花霞来し方包み古希の旅
● 深き山ひときわ映える桜かな
季語は「桜」(春)。 平明な句で「かな」の切字が良い。
● 薬師寺の壁画に心うばわれり
● 奈良の春壁画にすべて忘却す
「季語」を活かして、そして、薬師寺も活かしたい。
※ 薬師寺の壁画に春の日の光
● 山里の桜に夢を重ねけり
季語は「桜」(春)。「山里の桜」が平凡。
※ 大和路の桜に夢を重ねけり
● 山間の家並みに遅き桜かな
「山間」(さんかん)の詠みではなく(やまあい)の詠みで、「遅き桜かな」の下五が良い。
● 山里の段々畑花ふぶき
「花ふぶき」は普通には「花吹雪」たが、漢字が続くので「花ふぶき」にしたか。もう少し花吹雪を強調したい。
※ 一面の段々畑花ふぶき
● 山の春車窓に昔重ね見る
今回の句はいずれも説明的なところが気にかかる。
※ 車窓より見ゆ昔日の山の春
● 高野山初鴬が迎いけり
「初鴬」(新年の季語)が気にかかる。鴬(春)の句にしたい。
※ うぐひすや高野詣での吾迎う
● 奥の院時はとまり春霞
焦点がぼけている。「春霞」の句にすると、
※ 高野山奥の院いま春霞
「時はとまり」に焦点を合わせると、
※ 高野山霞して今時とまる
● 経の声春の静寂しみる朝
「経の声」・「春の静寂(せいじゃく)」が気にかかる。
※ 朝まだき春の静寂(しじま)に僧の声
● 春の朝身がひきしまる読経かな
「読経(どきょう)かな」の詠みの下五が気にかかる。
※ 読経の声身にしむや春の朝
● 高野山昔を忍ぶ春深し
中七の「昔を忍ぶ」が安易。
※ 昔まま高野百坊春深し
● 古希の春夢の旅路や法隆寺
「古希の春/夢の旅路や」と切らない。
※ 古希の日の春の旅路や法隆寺
● 夢に見し奈良の旅路や花ざかり
「夢に見し・奈良の旅路や」であれば前句よりもリズムは良い。
● 思い出を重ねる奈良の春の旅
「奈良の春の旅」に比して「思い出を重ねる」が平凡。
※ 追憶のまにまに奈良の春の旅
● 雲流れ藤の雨ふる音もなし
● 雲流れ藤の花ふる香り風
この二句とも焦点化が必要。
※ ひそやかに藤に雨降る音もなし
※ 雲流れ藤の乱舞の香り風
● 藤咲けば香る雨つぶ降るごとし
「降るごとし」の比喩が生きていない。
※ 雨つぶの降るきがごとく藤の房